小田切尚登氏の「やっぱり、今の日本の若者は恵まれている」
が現象として面白い。結局、若者の不幸自慢が問題を世代論に矮小化してしまったということなのだろう。
私は拙著『就職氷河期世代が辛酸をなめ続ける』
などで就職氷河期問題について書いてきた。旧就職氷河期世代(だいたい1971~1981年生まれ)の多くは今や35歳以上なので、政府統計的な意味でもすでに若者ではなく、すっかり「就職難を体験したオッサン・オバハン」なのだが、ここではその旧就職氷河期世代も含めて小田切氏の言うところの「若者」としておく(氏の論考は「40代以上」から同意され、それより下の年代からは多くの反論を受けているようなので)。
小田切氏はこう書いている。
「仮にタイムマシンで、過去のどんな時代の人にでもなれるとしてみよう。その時あなたは、いつの時代に行きたいだろうか? 70代以上のように戦中戦後に若い時代を過ごしたい、と思う人はいないだろう。
では、60代はどうか。『昔は夢があった』などという意見もあるが、それは美化された過去を振り返っているだけであり、当時そんな風に思っていた人などほとんどいなかったはずだ。
特に団塊を中心とする世代は人数が多く、同世代の間の競争が非常に厳しかった。将来のことなど、誰にもわからない。確実にわかっていたのは『今は厳しい』ということだけだった。大学進学率が15%から20%の時代である。
50代、40代と下るにつれて、社会は豊かさを増してきた。そのピークを迎えているのが、今である。(略)
はっきり言おう。日本の歴史上もっとも恵まれた世代は、今の若者だ。『世界の人類史上最高』といってもいいと思う」
(「やっぱり、今の日本の若者は恵まれている」
より)
私は就職氷河期問題を考えるに際して、安易な世代論や世代論的な不幸自慢に陥らないよう、他の世代との比較を行った。小田切氏の言うように、戦前生まれは苦労の連続だった。戦後生まれの団塊世代もいろいろと批判されてはいるが、“金の卵”の労働実態はそれなりに過酷なものだった。
“金の卵”の1人は、中卒で九州から大阪に就職し、早朝から夕方まで仕事、夜は夜間学校、さらに深夜は会社での研修という日々を送った。倉庫のようなところに住み込み、帰省することも許されなかった。別の“金の卵”は、募集時に定時制高校に通えるという話だったのに約束を反故にされ、ひたすら働かされた。すっかりやせ細り、実家からももう仕事を辞めろと言われたが、本人はそれでも仕事を続け、きっちり仕送りもしていたという。
この“金の卵”のたくましさを見ると、乱暴な“団塊批判”に疑問を感じざるを得ないし、就職氷河期世代の不幸自慢も相対化されてしまう。それぞれの世代がそれぞれのタイミングで辛酸をなめているが、全体としては「人生の帳尻」は合っているのではないか。そして、就職氷河期世代も、(拙著を書いた当時は2007年の好景気だったので)頑張ってキャリアアップすれば「人生の帳尻」は合うはずであり、そのためにも新卒を過ぎても何度でも再チャレンジできる(もっと言えば好景気の波に乗れる)制度が必要だ、というのが私の考えだった(その考えは今も基本的に変わっていない)。
「経済には景気の波があり、時には戦争もあるし、国家規模での浮沈もある。今や人生80年だが、その間に何の波乱もなく、穏やかに暮らせるという方が珍しいだろう。
しかし、トータルで見れば『人生の帳尻』は合っている。そう感じられるからこそ、人々の不満は爆発することなく、何とかその場をしのいでやっていける。
では、就職氷河期世代の『人生の帳尻』はこれから合っていくのだろうか。
戦争のような『ガラガラポン』はゴメンだが、経済成長によって、人生のレールに戻ることは必要だろう。
戦争や貧困、不況による就職難などで苦しんだ年配世代も、最終的には経済成長によってそのマイナスを埋めてきたのであるから」
(『就職氷河期世代が辛酸をなめ続ける』
より)
少し細かいことを言えば、団塊世代の中でも、大学で学生運動にうつつを抜かしながら、ちゃっかりと大企業に就職して、老後は(相対的に)多額の年金もらい逃げの“全共闘世代”には私も同情しようがない。また、バブル世代のように、団塊世代よりも若く、就職氷河期世代よりも年配の世代は、何だかんだと恵まれていたように思う。小田切氏が主に戦争体験世代を引き合いに出しているのも、“バブル世代vs就職氷河期世代”では話が成り立ちにくいからだろう。結局のところ、団塊世代も含めて戦後生まれはみんな平和で豊かな時代を生きた、「世界の人類史上最高」の“現代っ子”なのである。
その他にも、小田切氏は「国がどんどん発展していけば年金問題などどっかへ行ってしまうだろう」と書いているが、人口オーナス期における(社会保障の)世代間格差は“(人口増を前提とした)経済成長”を当てにできないからこそ、これだけ深刻な問題になっているはずだ。現実的には、引退世代の給付を激減させるか、消費税増税でだましだましやっていくしかない。たとえ人口オーナス期でも個々の若者が明るい未来のために働き、生産性を上げることはできるが、人口ボーナス期のように引退世代を“贅沢に養う”ことはできない。これは世代論とはまったく無関係の問題である。
世代間格差や就職氷河期といった問題は、本来、“どの世代が恵まれているか(どの世代が不幸か)”といった世代論とは関係のない話なのだが、ついつい同世代が集まるとグチになり、不幸自慢をして終わってしまう(言論も不幸自慢の方がウケる)。不幸自慢への反発からか、小田切氏のような論も出てくる。さらにそれへの“再”不幸自慢、不幸合戦と、不毛な連鎖は続く。
「今の日本の若者」が抱えている問題は、機会均等と再チャレンジの問題、人材育成と技術継承の問題、公的部門における給付と負担の問題など、わが国の構造的な問題ばかりである。若者の不幸自慢がこれらの問題を世代論に矮小化してしまったのだとすれば、これほど不幸なことはない。

フリーライター宮島理のプチ論壇 since1997
「改革する保守」をキーワードに、政治・経済など幅広いテーマを扱う。
『あなたのスマートフォンが狙われている!』
宮島理著
アスキー新書(アスキー・メディアワークス)
定価780円(本体743円)
2011年10月11日発売
ISBN978-4-04-870921-7
「スマートフォンやタブレット端末の普及が急速に進むなか、Androidをターゲットにしたウイルスや巧妙化するIT犯罪も急増しています。本書は最新のIT犯罪の手口と、身を守るためのノウハウを解説します」
仕事依頼募集中!
企画編集・取材・インタビュー・書評・コラム・コメント・出演・コピーライティング・テープ起こし・リライトなど、臨機応変にやらせていただきます。政治・経済・IT・科学など、幅広いテーマを扱っています。
主な著書に『雇用大崩壊 サラリーマンがなくなる日』(中経出版)、『就職氷河期世代が辛酸をなめ続ける』(洋泉社)、『現在がわかる! 格差社会』(九天社)、『読むだけですっきりわかる日本と世界のニュース』(別冊宝島、共著)、『子どもとケータイ Q&Aで学ぶ正しいつきあい方』(リックテレコム、共著)、『嫌韓流の真実!ザ・在日特権』(宝島社、共著)、『昭和・平成 日本「黒幕」列伝』(別冊宝島、共著)、『経済大論戦 1冊で50冊の経済書を読む』(朝日新聞社、共著)、『素顔の科学誌』(東京書籍、共著)。
政財界やオピニオンリーダーへのインタビュー・リライト、書籍などの構成協力も多数。また、ウェブで読めるものとしては、「「最強」オフィスマネジメント」(日経BP)、「MONEYzineニュース」(翔泳社)、「ネット危険地帯」(日本経済新聞)、「がんばれ ニッポンの製造業 今こそ成長への布石を打て」(日経BP)、「世界同時不況に備えよ――今この書に学べ!」(日経BP)、「位相シフトディジタルホログラフィ装置」(理化学研究所)、「抗生物質を不活化する酵素遺伝子の開発」(理化学研究所)など。
フリーライター宮島理の詳しいプロフィール・実績一覧と連絡先はこちらのページです。
編集部からお声をかけていただいて2010年1月より当ブログは「BLOGOS」に参加中。
アクセス上位記事
「「無縁社会」を恐れる損得勘定」
「「正義」を簡単に着替える日本人」
「図解:民主党の改革つぶしの手口」
「金持ちリベラルによる日本破壊」
「世代間格差と敬老精神──「お年寄りを大切にする」と「ワシを敬え」の決定的な落差」
「カマトトぶる日本人」
「資産格差を無視、所得格差に過剰反応して、世代間格差を置き去りにする日本」(小泉改革が格差を拡大したというウソ)
「選択的夫婦別姓制度の実質的な推進論を整理して見えてくる民主党の真の目的」
今の日本の若者は恵まれている論
2012/2/3
— posted by 宮島理 at 10:24 pm
愚民思想が根強い人気を持つ理由
2012/1/17

野田政権の支持率がわずか4カ月で半減した。わずか4カ月で支持から不支持に回った人々は「愚民」なのだろうか。
世論調査によれば、野田政権の支持率が急落している。読売新聞社
の調査では、就任時に65%もあった支持率が、今では37%にまで下落している。
この激しいアップダウンをどう理解すればいいのだろうか。いわゆる愚民思想の立場に立てば、わずか4カ月で支持から不支持に回るような人々は「愚民」である。消費税増税に反対するといっても、野田政権は発足当初から増税路線を明確にしていた。それを「知らなかった」「説明不足だ」というのは、おのれの不勉強と無知を他人のせいにしているという意味で、正真正銘の「愚民」と言える。
しかし、政策も見ずに感情で(あるいは「様子見」という名の日和見で)支持するような「愚民」が、わが国の3分の1以上を占めているとは思えない。やはり、4カ月前には65%の人が増税路線を支持していたのであり、その後、不支持に回った人々は、(「歳出削減が足りない」「財政再建の道筋が見えない」など)各論について異議を唱えているだけで、今も増税路線支持という総論へのスタンスは揺らいでいないのだろう。
このように冷静に考えれば、愚民思想が入り込む余地はないはずである。ところが、愚民思想というのは根強く、「ほんと、日本人ってバカばっかりだよな」という具合に、愚民思想に賛同する人というのは結構存在する。
愚民思想が根強い人気を持っているのは、「人間は自分が批判の対象になっているとは想像もしないものである」という真理が背景にあるように思う。私がこの真理を実感したのは、綾小路きみまろ
のファンを分析するテレビ番組を見た時だ。
その番組では、「綾小路きみまろのファンは、毒舌ネタのことを他人事だと思っている」という驚くべき事実を告げていた。綾小路きみまろの毒舌ネタは、中高年の哀愁を笑い飛ばす自虐ネタであり、ファン(当然、中高年が多い)もまた、自分自身を笑い飛ばしているものだと私は思っていたのだが、実際はそうではなかった。
番組スタッフが綾小路きみまろの毒舌ネタを見せた後に感想を聞くと、多くのファンが「いるよね、こういう人(笑)」という反応を見せていた。ファンにとって、毒舌は自分自身に向けられたものではなく、あくまでも「自分以外のかわいそうな中高年」を綾小路きみまろと一緒になってイジッている感覚だったのだ。
このような鈍感力
は、ベストセラーになった『バカの壁』
にも通じる。私はこの本を読んだ時、「はいはい、どうせバカで話が通じなくてすみませんね」と、養老センセイに腹を立てたものだったが(笑)、どうも世間の反応は違ったらしい。
この本を読んだ人の多くは、「いるよね、こういう話の通じないバカ」と、溜飲を下げていたというのを知って、私は軽くショックを受けた。「みんな、よほど自分に自信があるんだな」と半ばうらやましくなったと同時に、「こういう鈍感力を発揮することで、世の中は丸く収まっているんだな」と、アホみたいな当然の事実に気づかされたのだった。
愚民思想も、私なんかはついつい「はいはい、どうせ愚民で何も知らなくてすみませんね」といじけてしまい、「愚民なんて言わせないように勉強してやる」と(勉強が身につくかどうかは別として)単純に考えてしまうのだが、これだけ愚民思想が根強いところを見ると、それなりに多くの人々が自分自身の頭脳と階級性を過信しているらしい。少なくとも為政者は、愚民思想に逃げることなく、有権者の各論の違いをしっかりと考察して受け止めてほしいものである。
— posted by 宮島理 at 08:12 pm
オフィス環境に関する3つの記事
2011/12/28
オフィス環境についての記事を「日経BPネット」に書きましたのでお知らせします。「「最強」オフィスマネジメント」において以下の3つの記事(それぞれ前後編)を執筆しました。
「日本企業のオフィスは「作業場」に過ぎない
誤った「3つの通念」がオフィス改善を阻んでいる【前編】」
(三木光範・同志社大学教授にインタビュー)
「最適な明るさで生産性を高める「知的照明」
省エネも可能、オフィスに四季の変化をつくり出す【後編】」
(三木光範・同志社大学教授にインタビュー)
「[日本マイクロソフト] 新本社オフィスは人と人のつながりを徹底的に重視
フリーアドレス制を導入、共有スペースで対話の場を実現【前編】」
(日本マイクロソフトに取材)
「[日本マイクロソフト] 細心のオフィス作りで従業員の満足度を高める
独自のオフィス環境調査をもとに13カ月で本社移転を完了【後編】」
(日本マイクロソフトに取材)
「[ユニクロ] グループアドレス制を導入、目的は人材育成
社員の自律を促すフリーアドレス制から次のステップへ【前編】」
(ファーストリテイリングに取材)
「[ユニクロ] 仕事は7~16時、ワークライフバランスを重視
FRMICでグローバル人材を育て、将来の経営幹部候補に【後編】」
(ファーストリテイリングに取材)
— posted by 宮島理 at 02:28 pm
なぜ日本は変わらないのか
2011/12/20
口先だけで言うことがコロコロ変わる……そんな日本の意思決定が、日本の変革を遅らせている。これを変えるには、「空気」に流される意思決定を変えるしかないだろう。
どうして日本では改革(潜在成長率上昇と財政再建=世代間格差解消)が進まないのかをこの数年、特に考えてきた。もちろん大きな理由は根強い既得権の存在だ。同時に、他人の既得権(たとえば公務員利権など)は批判するくせに、「自分への補助金や保護規制は良い既得権」(たとえば社会保障利権など)として擁護する「利権脳」が、実質的な改革を阻害してきた。自分の身を切ろうとしない「利権脳」では、スケープゴート的な「改革(のようなもの)」はできても、本当の意味での改革は決して進まない。
ただ、「反原発」あるいは「脱原発」狂騒となった今年を振り返って感じるのは、既得権よりもさらに根深いところに、日本の意思決定の問題が存在するということだ。それは政治家から、会社の得意先、上司、さらにはマスメディア、「民意」に至るまで蔓延っている、無責任で不安定な意思決定の問題である。
まず、日本の政治は変わらないと言われる。それは、公務員が既得権を手放さないということもあるが、同時に、コロコロ変わる政策に対して、常にオプションを残しておこうという業務上の要請もあるのではないか。
具体的にはエネルギー政策がわかりやすい。わが国は、火力、原子力、水力を中心にバランス良く組み合わせたエネルギー供給を行ってきた。ところが、2009年の政権交代をきっかけに、火力が否定され(温暖化ガス削減)、水力も否定され(脱ダム)、原子力が推進された(原発ルネサンス)。実行部隊である公務員が意思決定に素直に従えば、火力と水力を大幅に減らし、原子力を増強するということになる。
そこへ福島での原発事故が起きた。一転して、政策は原子力否定となり、火力や水力が増強されることになった。原発事故前と後とで、原発のリスクは変わっていないが、事故によって感情的になった「民意」や政治家は、大慌てで政策を変えたのである。
意思決定が根拠なき「空気」に流され、コロコロと変わってしまう時、「責任ある」(というか尻ぬぐいさせられる)実行部隊はどのように考えるか。どんな意思決定が下ったとしても、大きく現状を変えずに、いつでも方向転換できるよう、オプションを最大限確保しようとする。
わかりやすく、会社の上司や、仕事上の得意先を思い浮かべてもらいたい。指示がコロコロ変わる上司や得意先というのは、世間に腐るほどいるだろう。プランAからプランCまであった場合、そのような上司が「よし、(明確な理由は特にないけど)プランAで行こう!」と言ったとしても、部下は額面通り受け取りはしない。密かにプランBやプランCの準備もしておく。でないと、「(明確な理由は特にないけど)やっぱりプランBだな」となった時に対処できないからだ。「プランAという指示だったじゃないですか」「だから私はプランBが最善だと言ったじゃないですか」と文句を言ったところで無駄である。
小さなプロジェクトでなおかつプラン相互が独立しているなら、プランAからプランCまで用意できるのでさほど影響はないと言える(担当者の徹夜が増えるという意味では影響がないことはないが)。しかし、複数のプランが相対立せざるをえない「社内改革」などの号令がかかった場合、不安定な意思決定に振り回されることを担当者が察知すれば、いつでも方向転換できるように、無難に大きく変えないようにするだろう。無責任で不安定な意思決定が、「オプション確保」という名の現状維持を生んでいる。
話をエネルギー政策に戻そう。政治が「これからは原発ルネサンスだ!」と言えば、公務員は「お説ごもっともですぅ」と承りながら、実際には火力も水力もしっかりと確保しておく。当然、「これからは脱原発だ!」と、きまぐれな政治家が言っても、「先生、さすがですぅ」と答えつつ、原子力もしっかりと残す。
どうせ近い将来、「やっぱり原子力も必要だな」と言い出すのかもしれないし、その時になって「すいません、原子力はもうありません」などと泣き言を言っても、「それを何とかするのが君たちの仕事だろう!」と怒られるに決まっている。だから、「政治主導」を先回りしておいた方が無難なのである。(本当の政治主導なら、リスクが顕在化するたびにうろたえたりせず、「やはりこのリスクは取らなければならない」と改めて意思決定を下せる)
鳩山・菅という憲政史上最低の総理大臣もひどかったが、現在の野田首相を筆頭に、これからは松下政経塾的なリーダーが続いていくだろう。『松下政経塾憂論』
にもあるように、政経塾出身政治家は口先だけで言うことがコロコロ変わる(松下政経塾の初志とは乖離しているというのが同書の主旨)。その意味で、現在の日本政治は、日本社会の縮図でもあるのだろう。
— posted by 宮島理 at 12:24 pm
参院攻撃と中国のゴーストネット
2011/11/2

衆議院だけでなく参議院もサイバー攻撃の被害に遭っていたようだ。セキュリティ意識の向上だけではなく、国家的なサイバー防御が求められる。
「関係者によると、衆院に送りつけられたウイルスは、感染端末の内部の情報を外部に送信するようプログラミングされ、送信先の一つが米国のネット会社が提供するフリーメールのアドレスになっていた。
このメールボックスの『受信箱』のフォルダには、8月上旬以降に送られてきた数百通のメールが保存されており、送信者のメールアドレスの中には少なくとも、参院議員2人、衆院議員1人のものが含まれていた。攻撃者が盗み取ったとみられる情報も暗号化された状態で入っており、メールの件名や本文の可能性がある」(読売新聞
)
このコンピュータウイルスは、中国国内のサーバーに強制接続するようになっていたという。拙著『あなたのスマートフォンが狙われている!』
にも書いたように、以前から中国は、ネットスパイ網「ゴーストネット」を使って、世界100カ国以上にサイバー攻撃をしかけているという疑いを持たれている。
ターゲットとなるコンピュータを「ゴーストネット」の監視下に置くために、メールの添付ファイルという形でコンピュータウイルスを送りつけ、ターゲットとなるコンピュータに感染させる。あとは、「ゴーストネット」を通して、機密情報を盗み出すことができると考えられている。場合によっては、ウェブカメラやマイクといった周辺機器を勝手に動かすことも可能だとも見られている。
今回、衆議院と参議院をターゲットにした「標的型攻撃」が、「ゴーストネット」によるものかどうかはわからないが、手口は非常に似ている。こうした国家的なサイバー攻撃に対しては、個人レベルでのセキュリティ意識の向上だけでは対処しきれない(もちろん、セキュリティ意識の向上も重要だが)。
不特定多数を狙う攻撃なら、攻撃側も不自然で大雑把な内容のメールしか送れないから、メールの文面もざっと見るだけで「怪しいかどうか」を判定できる。しかし、ターゲットをしぼった「標的型攻撃」の場合、攻撃側は取引関係などを調べたうえで仕事のメールをそれなりに偽装することができるから、メールが「怪しいかどうか」の裏を取るためには、電話で問い合わせるなどの手間がかかる。佐藤正久参院議員などは、それを実際にやっている。
「佐藤氏にも数年前から、月に数本の不審なメールが届いている。許可を得てパソコンの画面を確認させてもらうと、送信者欄には『外務省○○課○○○○』などと実名が書かれており、件名欄には『日米電話首脳会談について』とか『本省発○○発送データ』などと書かれ、ファイルが添付されている。
秘密保全の厳しい防衛省・自衛隊で長年勤務してきた佐藤氏の事務所では、怪しいファイルは絶対に開かない。各省庁の担当部署に送信者欄の人物について問い合わせると、『すでに異動しました』というケースが多いという。犯人側は、省庁の名簿などを保有している可能性もある」(夕刊フジ
)
わが国では、2000年に中央省庁に対するサイバー攻撃が起きて以来、サイバー攻撃対策が強化されるようになっている。一元的に対応する内閣官房情報セキュリティーセンターが設置されているほか、自衛隊でもサイバー攻撃対策が強化されている。2010年には、サイバー攻撃を想定した合同演習「サイバー・ストーム」に、日本も初めて参加した。
しかし、夕刊フジの記事でも指摘されているように、立法府である衆議院と参議院については、対策が遅れてきた面があるようだ。個人レベルでのセキュリティ意識の向上だけに頼っていては、佐藤議員のような人なら大丈夫だろうが、そうではない議員の環境において、必ず綻びが生じる。セキュリティ・ポリシーの強化、明確化とシステムの再構築が急がれる。
「スマートフォンやタブレット端末の普及が急速に進むなか、Androidをターゲットにしたウイルスや巧妙化するIT犯罪も急増しています。本書は最新のIT犯罪の手口と、身を守るためのノウハウを解説します」
— posted by 宮島理 at 11:11 am


